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EDIT THE WORLD

カメラを持って東京と日本各地と世界を行くエディターのフォトログ

いま、ふたたび、口紅の魔法に出会う。

Beautiful 40's エッセイ 女性

 

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「美樹さんは大人っぽくなる瞬間があるの?」と真顔で尋ねられた。月に2回、ジャズとラテンの歌のレッスンを受けている先生に、だ。


大人の女性の恋心の機微を歌わなくてはならないシーンで、どうしても私は「ハキハキ、元気よく」歌っているらしい。もっと女優になったつもりで、と言われたが、どうがんばってもハキハキ、元気よく、せつない恋心を歌ってしまう。

 

「まあ、性格なんでしょうから仕方ないわね」と苦笑された。

 

小さいころは、ハキハキ、元気よくしていることをよしとされていた。そのために私はきっとがんばってきたんだろう。生来の性格もあったと思う。そしてきっとほめられたりして、得意になったりもしたんだろう。

大人になれば自然にアンニュイになったりセクシーになったりゴージャスになったりして、勝手に大人の女性になるものだと思っていた。けれど、結論からいうと、セクシーにもゴージャスにもなれなかった。

そういう自分を、少し恥ずかしく思ってもいた。

 

つい先日、お互い駆け出しの頃によく仕事をしていたスタイリストに会った。さまざまな仕事をする売れっ子になっている。決して派手な服を着ているわけでも目立つ小物を身につけているわけでもないのに、センスのよさに控えめな品格が加わり、なんだか見事に素敵な大人の女性になっていた。

 

あの頃はお互い未熟だったよね、と笑い合ったあと、彼女が「これ、あげようと思って持ってきたの」と、華奢なミニバッグから金色に光る箱を取り出した。開けてみて、というので見てみたところ、一本の口紅が出てきた。

 

「これ、見た瞬間にあげようと思ったの。そして、今、あなたにきっと必要なものだという予感がする」

そう言っていたずらっぽく私を見つめた。

 

美しいケースに収まった口紅。赤でもピンクでもないコーラルという色が、私の気持ちを一瞬でときめかせた。

子どものころにこっそりと母親の鏡台に向かって、メイクをしたことを思い出した。きれいになった自分にうっとりして、メイク道具がほしくてほしくて、赤いクレヨンにこっそりとLIPSTICKと書いて筆箱にしのばせたことも。

 

「私は口紅を持ち歩いている」という気持ちが子ども心を華やかにして、誰も知らない秘密なのだということにドキドキしていた。

メイクポーチに口紅を入れて歩かなくなったのは、いつからだろう。私は長い間、何を忘れてしまっていたのだろう。

 

女友達からもらったコーラルの"LIPSTICK"は、これから私に何を教えてくれるだろう。いま、私の鏡台で静かに出番を待っている。

 

少女時代に母親の目を盗んでメイクをしていたこと、そしていま。40代の女性のメイクについて、ブランド・マネージャーの守山菜穂子さんと語り合ったサウンドマガジンも、ぜひお聞きください。

サウンドマガジンはこちらから

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全文書き起こしはこちらから

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守山菜穂子さんのブログはこちらから

naoko-moriyama.hatenablog.jp

 

 Photo : Miki Ikeda via Instagram