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EDIT THE WORLD

カメラを持って東京と日本各地と世界を行くエディターのフォトログ

美しく生きた人々に会いに行く〜「Modern Beauty〜フランスの絵画と化粧道具、ファッションにみる美の近代」展。

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今日は箱根・仙石原のポーラ美術館で2016年3月19日より始まっている「Modern Beauty〜フランスの絵画と化粧道具、ファッションにみる美の近代」展のプレスツアーへ。

渋谷から車に揺られること約2時間。実は、ポーラ美術館に行くのはこれが初めて。御殿場インターチェンジを降りてくねくねと上ると、ちょっと遠くまで来た、という感じがする。ドアを開けると、都心とは明らかに違う清らかな空気がさあっと気持ちよく頬を撫でてくれる。

どこに美術館があるの? と思って進むと、窪地に沿うような建築物が、自然に溶け込むようにそこにあることに気がつく。

 

展示は19〜20世紀の絵画を中心にファッション雑誌や装身具、化粧道具、ドレスなどを揃え、女性たちのファッションや化粧が画家たちによってどのように描かれたのかを見ながら、その背景や意味について考えるという構成になっている。

 

19世紀といえば、産業革命による技術の発展、百貨店の登場による流通の拡大、メディアの広がりによる情報の流通などにより、フランスのファッションが大きく変わっていった時代。

 

それにしても、そもそもファッションが近代絵画の重要な主題になっている、ということを初めて知った。

 

「19世紀以降の画家たちに影響を与えた美術批評家で詩人のボードレールが、移ろいやすいもののなかにある近代性(モデルニテ)を描くことを称揚したことで、都市風俗は新たな絵画の主題になったのです」とギャラリートークをしてくださった学芸課長の岩崎余帆子さん。

 

なかでも、流行を写し出す女性たちのファッションはかっこうの主題になったのだそう。なるほど! 

 

展示のすべてはとても紹介しきれないのだけれど、まずは19世紀の上流階級の貴婦人たちの話題から。彼女たちのファッションは時間によって決まっており、午前中はモーニング・ドレス、ランチを過ぎたらアフタヌーン・ドレス、夕方のティータイムにはティー・ガウン、夕食の時はイブニング・ドレスと、1日に何度も着替えたんだとか。

また、乗馬やテニスの時は専用の衣装、散歩の時も散歩用のドレスがあり、彼女たちはファッションリーダーだったというのにも納得。

 

それが転換するのは、19世紀半ば頃に産まれたファッション雑誌。それによって流行が広く伝わるようになり、19世紀末にはロンドンやウィーンなどヨーロッパ各地に、パリのファッション情報が1〜2日で伝わるほどになった。

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なかでも私が心惹かれたのは、雑誌に入れられていたという「ファッション・プレート(グラヴュール・ド・モード)」。流行のドレスや髪型、装身具などをイラストレーターが描いた版画のことで、熟練した職人が手で彩色していたという。

 

当時のおしゃれな女性たちが、ファッション・プレートを見て最新の流行に胸をときめかせていたのかと思うと、なんだかその女性たちと一緒にワクワクしているような錯覚さえしてしまう。

 

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また、これまで何度も目にしてきたルノワールの「レースの帽子の少女」(1891年)と「髪かざり」(1888年)。この2枚の絵画に出てくる女性、よく見ると、同じドレスを着ているような…?

 

「そうなんです。仕立屋の息子としてファッションに触れながら育ったルノワールは、自身が持つドレスをモデルに着せて描いていたのではないかといわれています」と、岩崎さん。画家がモデルに自分の手持ちの服を着せて描いているなんて、考えたこともなかったし知らなかった…!

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 同じく印象派のマネは、描く女性の服や帽子を、洋装店や帽子店で自ら選んで着せたことが知られている。今でいうと、スタイリングも手がけていた、というわけ。帽子を選んでいたのは当時有名な「マダム・ヴィロ」の店であったことも伝えられている。

 

今回の展覧会のアイコンともなっているマネの「ベンチにて」(1789)という作品は、カンヴァスにパステルという手法で描かれているのだけれど、「本来なら色乗りが悪く、今ではほとんど使われないこの手法を使ったのは、パウダリーで柔らかく、バラ色に染まった明るい肌を描きたかったからだと思います」と岩崎さん。

その明るくパウダリーで輝くような女性の肌を、今回展覧会の象徴にしたかった…と。

 

確かに、カンヴァスに写し取られたモデルのジャンヌ・ドマルシーの頬は、今にもこちらを向いて微笑みそうなほど美しい(ちなみにジャンヌは高級娼婦であったことが知られている)。

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 20世紀に入ると、女性の社会進出とファッションが深く結びついてゆく。1906年にポール・ポワレが妻のために発明したシンプルなドレスは、女性をコルセットの苦しみから解放。そして1914年には第一次世界大戦が勃発し、女性が働く機会が増えたことでさらにファッションは変化してゆく。

 

「このキスリングの『ファルコネッティ嬢』(1927)では、女性はもうコルセットを身につけていません。そして、膝が見えるほどスカート丈が短い。これは、1920年代に流行したドレスで、足を見せることが絶対になかった女性のファッションの急激な変化をあらわしているんです」(岩崎さん)。

 

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 その時代を描くことは、のちのちこうやって歴史になるんだな。それよりも大きな発見は、ファッションに視点を定めることで、画家や描かれたモデル達が身近な、生きていた「人」だと気がついたこと。

 

箱根に出かけて森を散歩して空気を吸って、美術を鑑賞して思いにふけって。とても豊かな1日が過ごせた。以前、「美術館はオトナの女の魅力をアップさせるセラピールーム」というコラムを書いたことを今さらながらに思い出した。

 

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今回は触れなかったけれど、展覧会ではほかに、文化学園服飾博物館とのコラボレーションで実現した、絵画に描かれたファッションを実際のドレスに仕立てた作品や、この時代の化粧道具コレクション、扇、ジュエリー、香水瓶などさまざまな展示がおこなわれているので、視点を変えればまだまだいろんな発見ができそう。


展覧会は9月4日まで。20分で森の中を散歩できる「森の遊歩道」も、緑あふれる時期はますます美しい景色が楽しめそう。館内のレストランでは今回の展覧会に合わせた特別メニューもいただけるので、また時期を変えて「素敵な人々=画家とモデルたち、その時代の女性たち」に会いに行ってみようと思っている。

 

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www.polamuseum.or.jp

 
※写真は取材のため特別に許可をいただいて撮影しています。