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EDIT THE WORLD

カメラを持って東京と日本各地と世界を行くエディターのフォトログ

瞼というシャッターを切りながら。

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「あ、ごめん、これ、前に一度言ったかもしれない」というと、「そうだっけ?」と彼はいう。

「昔はなんでも覚えていて、やな奴だと言われていたんだけど。だんだん、いろんなことを忘れるようになった。ま、それでいいのかなと思えるようになったのは、最近」

「うん、そうかも。忘れていくほうが幸せってことも、あるよね」

ヒトは生きるために忘却という能力を与えられた、と聞いたことがある。たしかに、いやな記憶や痛みをともなう思い出は、心の襞のどこか奥深くにしまって、二度と現れてこない方がいい。

けれど。

残念なことに、素敵な思い出も、あたたかな記憶も、同じように忘れていってしまうものなのだ。今、この瞬間のことですら。

幸せな時間を過ごしながら、この記憶も次々にこぼれ落ちていって、いつかはどこかに置き去りにされて、思い出すことすらできなくなるのかな、と考えると、せつない。

だから、この瞬間をしっかり感じておきたいのだ。瞼というシャッターを切りながら。

彼は眠そうだ。グラスの氷がカランと音をたてる。私は少しだけほほえんで、目を閉じた彼を見つめる。